● 狐に化かされた法印様 前のページへ戻る   HOMEへ戻る 

 むかし、篠束にいたずら狐がいて、村の人を化かしては喜んどったと。だが、村の人はたまったもんじゃない。
「あの狐め、なんとかしてこらしめてやりたいもんだ。」
と思っとったが、どうもうまくいかん。やっつけるどころか、いつも化かされちまってなあ、ぶらさげてきた嫁入りのごちそう食べられちまったり、きれいな娘と思って近よって、にやにやしとると、畑のまん中にねかされとったり、ありゃぁみんなあのいたずら狐のせいじゃとぼやくばかりだった。
 ところで、篠束に威宝院っていうお寺があって、その寺の和尚さんは村の人にうやまわれ、法印様、法印様と慕われてござった。
 それというのも、この和尚さんなんでもよう知ってござるのに、ちっともいばったところがなく、その上、明るくておもしろいので、村の人もつい相談に行きとうなってなあ、
「法印様、家を建てたいと思うだが、方角を見とくれましょう。」
「法印様、嫁をとりたいが年まわりはどんなもんずらか。」
「どうも病人ばっかりつづきますだが、法印様いっぺんうらなつとくれんかね。」
すると、そのたびに和尚さんは、
「ほう、そうかえ、そいじゃあ、こうしたらどうかな。」
気やすう相談にのってくれたんだと。村のしゅうの話のなかに、
「いたずら狐に化かされたでなんとかしとくれましょう。」
っていう相談は、まあしょっちゅうだったげな。
「狐のことだでしょうがないさ。」
初めはそう思っといでた和尚さんも、あんまり村のしゅうからたびたび狐の話があるで、
「あのいたずら狐め、ひとつこらしめてやらにゃぁいかんかなぁ。」
だんだんそう思うようになったんだと。
そんなある年の冬、かじかむ手にふうふう息をふきかけながら、朝早く寒行に出かけようと和尚さんが山門を出ると、なんとそこにいたずら狐が眠っとるじゃないか。
「ややっ、こいつめ、どうしてくれようか。」
足を止めた和尚さんにも気づかず、いたずら狐めよう眠っとること。
「このまま眠らせといてやるかなぁ………そいでも、たまにゃぁこらしめにゃぁ………。」
 和尚さんは、うふっとかたをすくめると、持っとったほら貝を狐の耳にそっと近づけ、思いっきり吹いたもんだ。いたずら狐はほら貝の大きい音にびっくりしたのなんのって、とび起きざまににげようとして、思いきり山門に頭をぶつけ、もんどりうってひとまわりした上、まるくなって一もくさんに逃げてったげな。
「わ、はっ、はっ、はっ、いたずら狐め、少しはこりたかな。村のしゅうにあんまりいたずらするでないぞ。」
 和尚さんはまじめな顔になって、白い息をはきながら寒行に出かけたんだと。
 その日は、かくべつしみとおるように寒かったもんで、お経を唱えながら行をすませて帰る時は、さすが行になれた和尚さんもこごえそうだった。素足にわらじばきの指先はまっかだったし、からだのしんまでそりゃぁ冷えきっとったそうな。
 それで、山門が見えた時、和尚さんはほっとして思わずつぶやいたもんだ。
「腹もへったが、ひとふろ浴びてぬくとまりたいもんだなあ。」
と、その時、和尚さんは、おっ、と、目をみはった。なんと、すぐそこにほかほか湯気をたてて、おふろがわいとるじゃないか。
「ほい、こりゃぁありがたい、だれがわかしといてくれたかしらんが、気のきいたことじゃ。さっそくごちそうになって暖まろう。なむ、なむ、なむ………。」
 和尚さんははだかになって、ざぶんと湯につかった。さっきまでの冷えきったからだも、ほわほわあったまるようで、なにやら眠とうなってきた。
「いい湯じゃなあ………ごくらく、ごくらく。」
 和尚さん、手ぬぐいを頭にのせ、よい、よい、よいと、歌まで歌っとると、通りがかりの村のしゅうがすっとんきょうな声でさけんだそうな。
「あれっ、法印様、なにしておいでるだん。」
 その声にびっくりして、和尚さん、はっと気がついてみると、なんとまあ、こえがめにつかっておったと。
「やれやれ、いたずら狐にしかえしされてしもうたわい。」
 わらいながらわけを話すと、
「そりゃまあ、なんとしたこっちゃ、法印様まで化かすとは………。」
 村のしゅうは気の毒がって、急いで湯をわかしきれいに洗ってくれたと。伝えきいた村のしゅうも、えらい人はとかくつくろうもんだが、狐に化かされたと、ほんとのことをいっとくれて………と、いよいよ慕ったそうなが、和尚さんは思いだしては、
「あのいたずら狐め、やりおったな、まあよい、おあいこじや。」
と、腹をかかえてわらってござったと。

「小坂井のむかし話」小坂井教育委員会発行 より引用


威宝院

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