● 福能寺の乳薬師 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 ずっとむかし、谷川の村に、富田民部太夫正利という人がすんでいました。 正利もおくさんもたいへんしんじん深く、朝ばんほとけさまのおまいりをかかしたことがありませんでした。
 ある年のこと、ふたりの間にかわいらしい赤ちゃんが生まれました。
 ところが、こまったことにおくさんのおちちがほとんど出ないのです。 赤ちゃんは、いつもないてばかりいました。 そこでおくさんは、「おちちがたっぷり出ますように」と、ほとけさまにいっしょうけんめいおいのりをしました。
 そんなある夜のこと、まずしいたびのおぼうさんが、正利の家へやってきて
「わたしはたびのものですが、今夜のやどをさがしています。 どうかのき下でもかまいませんからとめてください。」
とたのみました。
「それはそれは、なんのおかまいもできませんが、どうぞ中へおはいりください。」
ふたりは、たいへん気のどくに思い、しんせつにもてなし とめてあげました。
 おぼうさんがふとんにはいり、うとうとしかかった時です。
「おぎゃあ、おぎゃあ。」
とつぜん、赤ちゃんのかなしそうななき声が聞こえてきました。 そしてなき声にまじって赤ちゃんをあやすおくさんのおろおろした声も聞こえてきました。
 たびのおぼうさんは、となりのへやで、その声を聞くとはなしに聞いていました。
 やがて朝になりました。
 たびのおぼうさんはいいました。
「わたしにできることならなんなりといたしましょう。 こまっていることがあったらいってください。」
ふたりは、顔を見あわせていましたが、
「じっは、赤んぼうにのませるおちちがほとんど出ません。 朝ばんほとけさまにおちちが出るようにおねがいしているのですが………。」
「それはさぞおこまりのことでしょう。 わたしが力になりましょう。」
おぼうさんはそういうと、正利をつれて鳳来寺山のお薬師まいりに出かけました。
 そして、おまいりをすませると、山の上の木を切って、もち帰りました。
 やがて、おぼうさんはその木でみごとな薬師如来橡をほり上げました。
「朝ばんいっしょうけんめいこのお薬師さまをおがみなさい。 そうすればきっとねがいはかなえられるでしょう。」
おぼうさんは、そういって立ちさりました。
 さっそくふたりは、いわれたとおりにしました。 すると、なんとふしぎなことでしょう。 あれほど出なかったおちちが出るようになったのです。
 あまりのうれしさにふたりはおどり上がってよろこびました。 そして、なんどもなんどもお薬師さまにおれいをいいました。
 このおぼうさんは比叡山で天台宗をおこされた最澄だったのです。
 このふしぎなできごとをつたえ聞いた村人たちは、お堂をたて、お薬師さまをおまつりすることにしました。
 やがて、お薬師さまのお堂がりっぱにたち福能寺と名づけられました。
それからというものは、「福能寺の乳薬師様」とよばれるようになりました。

「とよかわのむかしばなし」(豊川市小中学校社会科研究サークル発行)より引用 

福能寺

一つ前へ戻る           HOMEへ戻る