● 牛の滝 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 川田と東上との間に境川という川があります。 その境川の水は、昔から川田と東上で分けあって使っていました。 けれども、毎年田植えの時期になると、2つの村のあいだに水あらそいのおこるのがつねでした。 いよいよ田植えが始まりましたが、水が少なく、川田と東上では、ま夜中にこっそり水をとりあっていました。
 ある夜、水のとり入れ口で川田の者と東上の者と、ばったり行きあってしまいました。 おたがいに、自分たちの田の方へ水をとろうとして、
「きのう、川田では、東上の水口を止めたな。」
「なにお、おまえの方こそ、全部水をぬすんだじゃないか。」
と言いあい、その争いは2時間も続きましたが、いつまでたっても終わりそうにありません。
 と、その時、川上の方から、一頭の大きな牛が、のそのそとはい出してきました。 身のたけ3丈あまりの象よりもはるかに大きい牛です。
 その牛が、一声、
「モーン]
となきました。 争っていた男たちは、その声のした方をすかして見て、まったく驚きました。
 何しろ3丈もある牛の怪物が、やみの中に立っているのだから、川田の者も東上の者も、もう水争いどころではありません。 きもをひやしていちもくさんに逃げ帰り、ころがるように家にかけこむと、ものも言わずに、ふとんをかぶり、ぶるぶるふるえながら寝てしまいました。
 あくる朝になり、太陽が顔を出したころ、男たちは家の者や近所の人たちにはげまされて、おそるおそる昨夜のけんかをした所へ来て見ておどろぎました。
 なんと目の前に大きな滝ができて、どうどうと落ちているではありませんか。 また滝に洗われている岩の形が、昨日の大牛そっぐりではありませんか。
「おお、これはおらたちが、争いばかりしているので、神さまが大牛になって、そしてまた、滝になっておらたちのことを見ているんだ。」
「こりゃあ、きっと神さまにちがいない。」
と話し合い、東上と川田では仲なおりして、これからは水を半分ずつ分けあって使うことにしました。
 というようなわけで、この滝を牛の滝と呼ぶようになったのです。 岩の形が牛ににているのは、長い年月の水の作用で変化したものでしょう。
 しばらくは川田も東上も仲よく水を分けあっていましたが、年がたつにつれて、牛の滝の神さまのことなど忘れてしまい、またもとのような水争いがはじまってしまいました。
 昨日も今日もと続く、毎日の水争いに、どちらの村もまいってしまい、とうとう、両方の村から代表をたてて、相談をすることになりました。 その話し合いの結果、川田では、東上から酒1升をもらい、水の権利を手ばなすということになりました。 それ以来、川田では東上のあまった水をもらうことになったのです。 ですから雨の降らない年は大困りです。 東上の方は境川の水が自由に使えるので、少しもこまりません。 しかも、この相談は川田から出た案であったというのですから、川田としても、まことにとんだ約束をしたものでした。

 新城昔ばなし 365話(新城市教育委員会発行) より引用 


牛の滝

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