● アウサカと火柱 前のページへ戻る   HOMEへ戻る 

      里川の 若木の花も なつかしく
                       風 生

 俳人風生は養父(やぶ)村で生まれました。この句碑が大坂神社の入口に建っています。その碑の前で、いつ頃のできごとかわかりませんが、天をもこがす火柱が上がりました。その火柱は養父じゅうを真夜中でも昼間のようにさせるほどでした。この火柱と深い関係があるのが大坂神社です。またの名をアウサカといいます。いまも、アウサカと書かれたのぼりが残っているのですから、信用できます。アウサカとは、この坂の下で人が逢っていたということです。
 それでは、火柱とアウサカのいわれについてお話を進めていきましょう。
 その昔、青年が照山の西の方に1人で住んでいました。東の方にはなだらかな小さな山があります。これを、こでり山と言い、そのふもとに18才になる美しい娘が両親とともに暮らしていました。
 夏の虫たちがありったけの声をふりしぼって鳴いていた9月の終わり頃、青年はコオロギの声にさそわれて山の尾根を東の方へ歩いていきました。
 ちょうどその頃、東の方にいた娘も鈴虫の鳴き声にさそわれて、こでり山のふもとを西の方へ歩いていきました。坂の下で2人はばったりと逢いました。若者と娘はそれ以来いつも日が暮れかかるとこの坂の下で楽しい語らいをつづけるのでした。
 日が西にかたむきかけると、娘は落ちついていられなくなりました。それに気付いた母親が、
「お前、この頃変じゃないかい。何かいいことでもあるのかえ。」
「はい。」
「はい、じやわからん。なんでもいいから母さんにだけは言っておくれ。」
「好きな人ができたんです。」
「どこの誰だい。どんな男。」
「照山の向こうにいる青年です。」
「親のいうことを聞く人かえ、親の肩をもんでくれる人かえ。」
「そんな情けない人じゃない。」
「親に孝行しない者は、お前にもいいわけかない。今後いっさい遭わせないぞ。」
「わたしの好きな人だよ。どうしてじゃまするの。わたしだってねえ、男を見る目はあるつもり。最初逢ったときは60点、2回目には心のやさしい人だったので70点をつけました。」
「男で70点もつけれる人はいない。男は悪魔と思っていてちょうどよい。」
「4回目に逢ってみると、男らしくて気迫があり、わたしの心をみるみるうちに引きつけてしまいました。わたしは100点満点をつけました。」
 この話を聞いていた父親が、突然横から大声で怒鳴りつけました。
「何が100点満点だ。」
「200点でもいいくらいの人。」
「バカ者、男はなあ・・・」
「うるさい。あの人はいい人だ。素晴らしい人だ。」
「どこの馬の骨かわからん男のどこがいい。」
「わたしの結婚を親はじゃまするのかん。」
「お前を幸せにしてやりたいからだ。」
「そんなにわたしの選んだ人にケチをつけるんなら、結婚なんかしてやるもんか。」
「結婚しないでどうする気だ。」
「一生1人でいるだけだ。」
「親に恥をかかせる気か、お前は。」
 娘は家をあとにして照山の方に泣きながら走っていきました。
 その時です。坂の下の風生の碑の前に天をもこがす火柱が燃え続けているではありませんか。その火柱は音もなく静かに燃えているのです。養父じゅうが昼間のように明るくなりました。
 この火柱に気付いた男はあわててこの坂に走って来ました。驚いたことに、火の横に見訓れた娘が立っているのです。
 −方、娘に去られた親たちは大きな悲しみに沈んでしまいました。どんな無理なことをいっても素直に従っていたあの子がどうしてこんな女になってしまったのか。世の中にはわがままで気の強い女が多くなったと思っていたが、よもや自分の娘がこんなになるとは想像もしていませんでした。
 それからは、毎夜若い2人がこの坂に近づく頃には、火柱が上がって2人の語らいを手助けするような日が何日も続きました。
 やがて2人は結ばれ、誰いうとなくこの坂をアウサカというようになりました。

ふるさとの伝説 昔のはなし(宝飯郡一宮町発行)より引用


大坂神社

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