● 勝川のお稲荷さんと白狐 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 勝川という所は、山つきの村ですが、お稲荷さんを祀るようになってからは、お米はもちろんのこと、麦や豆なども大変よく出来てみんな幸せに喜んで暮らしていました。お稲荷さんのお蔭だといって2月の初午の日には、村中総出で立派なお祭りをしていました。
 ところが、時々山から猪が出てきて、折角実ったお米や粟などを食べてしまうので、村人たちもほとほと参って、なんとかして猪をつかまえようと考えていました。
 ある年の秋のこと、罠に仕掛けた落とし穴に1匹の大きな猪が落ちているのを見つけました。村人たちは寄ってたかって騒ぎだしました。
「わあっ、すごい。でっかい猪だ。」
「この猪だな、おらがの田んぼの稲をかじってしまったのは。」
「けしからん奴だ。たくさん食べたと見え、よう肥えとるわ。」
 人々はわいわい騒いで、しばらく穴の上から見ていましたが、しばらくしてひとりが、
「この大きな猪、どうするだん?」
と言いました。するとほかの1人が、
「こいつを逃がしてやると、又々、村の作物を荒し回るから、いっそのこと殺しちまって、それからこれは内緒だがのん、肉をみんなで分けあって食べたらどうだらあ。」
と言ったけれども、みんなは黙りこくってしまいました。それもそのはず、その頃は猪などの4つ足の動物の肉は食べてはいけないというきまりがあったからです。
 それから、しばらくして誰かが、
「でも折角つかまえたんだから、内緒で食べたらどうだ。いくら神様でも、お役人でも、こっそり食べるんならわかりゃせんだろう。」
 こうして猪の肉は、村中で分けあってこっそりと食べることになりました。グッグッと肉を煮ているおいしい匂いが、村のあちこちに漂いました。
 すると、その日の晩から変な事が起こりました。お稲荷さんの西の穴にお使いとしてすんでいる白狐が、毎晩のように、コンコンと泣きながら、お稲荷さんの山を上から下へ、下から上へと走りまわるようになりました。村人たちは、この白狐のやかましい鳴き声で夜もろくろく寝ることができません。
 そこで、また村人は集まって相談をしました。
「どうしてあの晩から白狐がやかましく鳴くんだろうな。うるっさくてしょうがないや。」
「どうも、これは考えてみると、食べちゃいかん肉を食べたんで、お稲荷さんがつむじを曲げられ、白狐にコンコン鳴かせて村人に悪いことしたなと知らせていると思うんだがな」
「そうかも知れんぞ。じゃあ、村人みんなでお稲荷さんにあやまらなくては。」
「そうだとも、これから肉は一切食べませんという、謝り証文を書いて、神主さんにご祈祷してもらうようにしてはどうだ。白狐にも、うまく取り次いで貰うよう好物の油揚げをお供えしておがむのさー。」
 こうして話はまとまり、村人たちは謝り証文と油揚げをもってお稲荷さんにお参りしました。
 このお参りがすんでからは、あれほどやかましく鳴いた白狐も鳴かなくなりました。
お稲荷さんも、
「一件落着、もう鳴かなくっていいんだよ。」
と言ったかもしれません。
 それから村人たちは、前と同じように安心して、一生懸命に仕事に精出して、幸せな暮らしが出来たということです。
 あの時、村人がお稲荷さんに差し上げた謝り証文は、今もお稲荷さまに残されていると言われています。

 ふるさとの伝説 昔のはなし(宝飯郡一宮町発行)より引用 


稲荷神社

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