●  松源院に伝わる天狗の爪 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 むかし、本宮山の頂上近くの天狗岩という大きな岩の所に、大天狗が住みついていました。 この天狗は一宮祭りで売っているような赤い顔の鼻の高い天狗ではなくて、顔は黒紫のぬれば色、そしてカラスのくちばしのような鼻をした天狗でした。
 大天狗は、世の中の善いこと悪いこと、みんなお見通しで、本宮山の頂上にある砥鹿神社の奥宮のねぎさんや、興宮の裏にあった薬師堂の坊さんたちが、その日のおっとめをなまけたりしていると、小天狗に言いつけておどしたり、荒らしまわったりしましたので、ねぎさまも坊さんもびくびくしていました。
 ある時、薬師堂の坊さんが、夕べのおつとめ、つまりお経を唱えるのも忘れて、好きな般若湯 (お寺ではお酒のことを般若湯と言います) をチビリチビリとおいしそうに飲んでおりました。 すると、奥宮の裏にある御神木の大きな杉の木の上の方で、急にピカピカと光ったかと思うと、ゴロゴロと雷さまみたいな大きな音がして、大変な騒ぎになりました。 間もなくロウソクの火がパッと消えて、部屋の中は真っ暗になってしまいました。
「ワァッ、この騒ぎにはビックリするわい。コリャ、雷さまではなく、いつもの小天狗のいたずらだな。 そうだ、しまった。 今日は、大事な夕べのおっとめのお経を仏さまにあげるのを忘れちまったんで、それで小天狗がわしをおどしにきたんだナ。 ピカピカ、ゴロゴロとうるさくてしょうがないわい。 早速戸をしめなくては。」
 そう言って少しあいていた戸を締めようとした時、黒い影が坊さんの目の前を通りすぎました。
「ハテ、何だろう。」
と思いましたが、暗やみの中でよく見えませんでした。
 しばらくするとへ ピカピカ、ゴロゴロの騒ぎもおさまって静かになりました。 坊さんは、ローソクに火をともし、又般若湯を飲もうとしてとっくりを持ったところ。
「こりゃ、チョット軽いわい。 こぼしてしまったのかな。」
と言いながら湯呑みにつごうとしましたが一滴もでてきません。
「ウーン。 やっぱり天狗のしわざだな。 ピカピカ、ゴロゴロおどかしといて、そのすきに入って飲んでしまったんだナ。 さっき暗やみの中で戸を締めようとした時、目の前を通りすぎて出ていった黒い影は、あの小天狗だったんだナ。」
 坊さんがブツブツ言いながら、締めた戸のあたりをよく見ると、そこに今までに見たこともない変な物がひとつ落ちていました。
 ローソクのあかりでよく見ますと、
「ありゃ、こりゃ爪だ。 あの小天狗があわてて出ていくとき、わしが締めた戸にはさまれて落としていったんだナ。 あの小天狗の爪にちがいない。」
とたいへん珍しそうに眺めていましたが、
「かわいそうになあ、でもこの爪のことであとの崇りがあってはたいへんだから何とかしなくては。」
 坊さんは夜の明けるのを待って、天狗の爪を大事に包んで、お山の下にある親寺の松源院に持ってきました。
「‥・と言うわけでございますだ。 あとの崇りがないように供養をして祀ってくだされや。」
と言って天狗の爪を差し出しました。
 松源院のお和尚さんは、それを受け取って、ていねいに供養しました。 それから、どうしたものか、大天狗もあのいたずら小天狗も姿をあらわしませんでした。 どこかへ行ってしまったんでしょう。
 この時以来、松源院では天狗の爪の供養を続け、お寺の宝物として大事に大事にしているということです。

  ふるさとの伝説 昔のはなし (宝飯郡一宮町発行) より引用 


松源院

砥鹿神社本宮山奥宮

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