● けさがけ地蔵 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 五百年も昔のことです。牛久保に、渡辺太郎左エ門というおさむらいがいました。とても信心深い人で、近くにお地ぞう様をまつって、毎日お参りをしていました。
 村の世話はすすんでしてくれるし、みんなにはしんせつにしてくれるので、村人から、とてもたよりにされていました。 
 ある日のことです。太郎左エ門は、との様の命令で、となりの八幡村へ出かけました。話し合いがうまくいかなくて、帰ろうとした時は、もう、日がくれかけていました。
「さて、用事もすんだ。帰るといたそう。」
馬に乗った太郎左エ門の後ろに家来が続きます。
「とのも、お待ちであろう。」
急ぎ足であせをかきながら、やっと本野が原にさしかかりました。
 人の背ほどもある草が生いしげり、木がまばらに生えています。家は一けんも見あたりません。牛久保へ帰る道では一番さみしく、気味の悪い道です。
「もう一息じゃ。みなのもの、足元に気をつけよ。」
太郎左エ門が、そう声をかけた時でした。とつぜん、まわりの草むらから、ばらばらっと野武士があらわれて通をふさぎました。二十人ほどいるようです。
「やい、命がほしかったら、持ち物をみんな出せ。」
かしらと思われる者が大声で言いました。太郎左エ門はとの様のおつかいの帰りです。さわぎをおこしたくないと思いました。
「何者だ。わしは、牛久保の太郎左エ門じゃ。名をなのれ。」
太郎左エ門は、おちついてたずねました。しかし、野武士たちは聞きません。
「つべこべぬかすな、それ、やっつけろ。」
どっと、太郎左エ門たちを取り囲みました。
 争いを好まぬ太郎左エ門でしたが、仕方がありません。馬から飛び降り、松の木を背に刀をかまえました。
「なむ地ぞう大ぼさつ、なお地ぞう大ぼさつ、わたくしどもをお守り下さい。」
一心にとなえながら、野武士どもと戦いました。けれども、相手は大ぜいです。
どんどんせめこまれ、もうこれまでかと思った時です。数人のわかざむらいが、風のようにあらわれました。
「お助けいたす。」
言うがはやいか、野武士どもに切りかかっていきました。
「かたじけない。」
かた手につえを持ったさむらいが、太郎左エ門を守ります。野武士たちは、太郎左エ門をめがけてかかってきます。
「あぶない。」
さむらいのかたに刀が・・・・
「だいじょうぶか。」
「なんの、これくらい。」
わかざむらいは気にするようすもありません。次々と野武士をたおしていきます。
 ついに、かしらを松の木においつめ、つえで足をうち、動けなくさせました。
手下たちは、もうこれまでと思ったのか、かしらをかかえてにげていきました。
「お助け、かたじけない、きずはいかがか・・・。」
太郎左エ門がふリむいた時には、もう、わかざむらいたちのすがたはありませんでした。
 次の日の朝早く、村人たちが太郎左エ門の家にかけこんで来ました。
「大変でございます。お地ぞう様が切られてござる。かたからむねにかけて血がべっとりとついています。」
話を聞いて、太郎左エ門は、なみだを流しました。
「そうか、あのさもらいはお地ぞう様だったのか。私の身がわリになって助けてくださったのか、ありがたいことじゃ。なむ地ぞうそん大ぼさつ。なむ地ぞうそん大ぼさつ・・・・。」
人々は、それ以来、かたからむねにかけてきずのあるこのお地ぞう様を 「けさがけ地蔵」(みがわリ地蔵) とよぶようになりました。

ふるさとのはなし とよかわ (豊川市発行) より引用 


善光庵とけさがけ地蔵

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