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 昔、大蓮寺の観音さまを、そりゃあ熱心にお参りをしていた男がいた。 ある日、男はとんでもないことを思いついた。
 「観音さまを家におつれすりゃあ、雨の日だろうと、風の日だろうと拝める。 おいらだけの観音さまだ。いつもそばにいて守ってくださるから、こんなありがたいことはないぜ」
何とも、罰当たりなことを考えついたものだ。
 次の日、急げとばかりに男は、鶏もまだ鳴かない夜明け前、お寺にやって来た。 ぬき足、さし足、しのび足、
「しめしめ、小坊主たちは、まだぐっすり眠っておるわい。 観音さまよ、ちょいと辛抱してくだされや」
 男は大風呂敷を広げて、すっぽりと観音さまを包み、ヨイコラショツとおぶった。 嬉しくて、嬉しくてたまらない男は、背中の重い観音さまもなんのその、ようやく明るくなった道を、すたこらと家に向かった。 だが、家まで半分も来ていないのに、えらく背中が重たいのだ。
「こりゃどうしたことだ。おいらは観音さま一人だけおぶっているはずなのに。 二人の観音さまをおぶっているようだ。 どえらい重い。 どうやら張り切りすぎたようだ。朝倉橋のたもとで休んでいくとしよう。がまんだ、がまんだ」
 しばらくして、また、ぽつりぽつりと歩きはじめた。 朝倉橋までへとへとになって、やっとたどり着いた。もうそこからは一歩も歩けなくなってしまった。
「わあ、もうたまらんわい。 観音さまが三人になって、おいらの背中でお経をあげてござる。お経がごんごん胸に響いてくらあ。 観音さま、勘弁して下され」
 とうとう男は、観音さまを橋のたもとに、放り出して、家にすっとんで帰ってしまった。
 その頃、お寺では大騒ぎ。和尚さまは小坊主を叱りつけ、小坊主は青くなって泣きわめき、てんやわんやの一大事。 そこへ
「和尚さま、大変じゃあ、観音さまが橋のたもとで寝ころがってござるぞ」
村の人が、慌てふためき寺に駆け込んできた。
 こうして、観音さまは無事にお寺にお戻りになった。 けしからん思いつきで観音さまを盗もうとした男は、背中で聞いた観音さまのお経に、すっかり目がさめた。 また、和尚さまも日頃から信心深い男をお許しになった。
 こうして今も、大蓮寺の閣魔堂に観音さまは、何ごともなかったように、十王さまと並んで、静かに、人々の幸せを見守っておられる。

 豊橋の民話「片身のスズキ」(豊橋市図書館発行) より引用 


太蓮寺

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