● 知恵地蔵 前のページへ戻る   HOMEへ戻る 

 昔、前芝村に働き者のばあちゃんがいた。 ばあちゃんは若い頃からよく働き、そりゃあみんなが感心していた。
 ある日のこと、ばあちゃんが仕事に出かける途中で小石につまずき転んだので、家にもどり休んでいたが、だんだん痛みがひどくなり、とうとう歩けなくなってしまった。 じいちゃんも、子どもたちも心配して、薬草を煎じて飲ませたり、背負って医者につれていったが一向によくならなかった。 ばあちゃんは、
「ほんにつらいこと。 これじゃぁ畑仕事もできやぁせん。 わしゃあなんの役にもたたんもんになっちゃったやぁ。  ほんに情けない、情けない」と、嘆き悲しんでいた。
 ところが、ある晩のこと、ばあちゃんは不思議な夢をみた。
「深い霧の中から、仏さまが現れてな、わしの目をじっと見て、『知恵地蔵にお参りせよ。そうすればお前は必ず歩けるようになるぞ』とお告げがあったんじゃ。 みんなが毎日働いとるのに、わしだけが寝とっちゃすまんでな、わしゃあ藁にもすがりたい思いだて。 じいちゃん、すまんが明日、わしを蛤珠寺の知恵地蔵さんとこへつれていっておくれんさい」
 次の日、じいちゃんは大八車にばあちゃんを乗せて蛤珠寺につれていった。 そこで、ばあちゃんは知恵地蔵さまに手を合わせ、何度も何度も一生懸命お参りをした。
 その次の日の朝、なんだか足が軽くなったような気がしたので、思い切って立ってみると、なんと立ちあがることができた。
「あ、ばあちゃんが立っとるぞ」
 そりゃあ信じられんようなことが本当に起きた。 いままで寝たきりだったばあちゃんがゆっくり歩きはじめると、みんなは、またまたびっくりした。 なにより、ばあちゃんの喜びようはたいへんなものだった。
「こりゃあ知恵地蔵さんのおかげにちがいない」
 これを聞いた近所の人は、どこかが痛かったり、具合が悪くなると蛤珠寺の知恵地蔵さんにお参りをするようになった。 噂はどんどん広まり、遠くの方からも蛤珠寺を訪れるようになった。
 いまでは、地蔵さまの名前のとおり、体の具合の悪い人のほかに知恵を授けてもらおうと入学試験や就職試験の合格祈願にくる人たちでにぎわっている。

豊橋の民話「片身のスズキ」(豊橋市図書館発行)より引用 


蛤珠寺の知恵地蔵

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