● 身がわり地蔵 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 吉田宿の神宮寺は、いつも子どもたちが手習いをしたり、遊んだりする寺だった。
 ある秋のこと。
 どどおん、どどおん、ごわあん、ごわあん、ごわあんと、地面が大きくゆれた。 お堂の中にいた和尚さんは、大あわてで子どもたちに叫んだ。
「あぶないっ。 は、はや逃げりんっ。 おもてに出りん」
 子どもたちは、びっくりして、庭へころがりでた。
 玄関口で墨をすっていた「いさ」という女の子は、玄関が崩れ始めた時、大あわてで硯をつかむと、ぱっと表にとびだし、井戸屋形の下に飛び込んだ。
 その時だった。 みしみし、どどどどおん。 ばりばり、ぐわしゃん。 雷さまのような音をたてて井戸屋形が崩れ落ちた。 いさは井戸屋形の下敷きとなった。 その時、すぐそばの鐘つき堂も一緒に倒れ、崩れ落ちた。
 地面のゆれがおさまって、和尚さんは子どもたちの人数を数えた。 しかし、何度数えても1人たりない。 子どもたちが気付いて叫んだ。
「いさがおらん。 いさっ。 いさっ」
 和尚さんは、必死でいさをさがした。 くずれた井戸屋形を覗き込むと、
「あれは・・・。 ひょっとしたら・・・」
 硯を握る白い手が見え、和尚さんの背中に、冷たい汗がすっと流れた。 その時、硯がびくつと動いた。 和尚さんはごくりとつばを飲み、その様子をじっと見つめた。
 やがて、井戸屋形の下から、がさごそといさがはい出してきた。 驚いたことに、いさは、少しもけがをしていない。 和尚さんも子どもたちも手をとりあって喜んだ。
 少したったある日のことだ。 いさと両親の夢に地蔵が現れた。
「わしは神宮寺の地蔵じゃが、先日の地震でいさの身代わりとなり、わしの首は折れてしまった。 どうか、元通りに戻しておくれ」
 次の日、くずれた鐘つき堂を急いで取り除くと、確かに石の地蔵が倒れていた。 しかも地蔵の首は折れ、頭が取れてしまっていた。
「お地蔵さまは、いさの身代わりになってくださっただに。 ありがたいのん」
 いさも両親も、和尚さんも近所の人たちも、石の地蔵に感謝して、地蔵の首をつないでさしあげた。
 それからは、この地蔵を「身がわり地蔵」と呼び、深く信仰されている。

豊橋の民話「片身のスズキ」(豊橋市図書館発行)より引用 


神宮寺

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