● 岩屋の観音様 前のページへ戻る   HOMEへ戻る 

 今からおよそ240年ほど前、豊川にかかっている吉田大橋の架け替え工事をすることになった。お役人は、工事をしてくれる大工を八方手をつくして捜し歩いたが、なかなか見つからなかった。
 この噂は、大橋近くの船町や下地の人々の間にも伝わっていった。ちょうどそのころ、四国のお遍路さんの帰りだという江戸の講の衆が船町の宿に泊まっていた。宿の亭主が、お膳を出しながら、
「すぐそこの吉田大橋を架け替えるっちゅうことだ。ところがね、工事を請けおってくれる大工が見つからないそうでねえ。お役人が、困っていなさるだよ」と話した。
 すると、大工のことにかけては、めっぽうくわしい講の衆が、
「そんなら江戸に打って付けのもんがいるぞ。まず、まちがえっこねえ」と言った。亭主は大喜びで膝を打ち、早速人づてに、この話をした。最後には、お奉行さまの耳にも入り、「いい話じゃあないか」ということになった。ほどなく、江戸の下谷から茂平と善右衛門が吉田へやってきた。着く早々、現場をみた茂平は、とてつもなく大きな川にかかっている古い橋を見るなり、腕組みをしたまま身動きひとつしなかった。あとで聞くと、「まずは橋のかたちを頭に叩き込んでいた」ということだ。
 次の日から2人は弁当持ちで、流れの速い豊川を船で上ったり下ったりして、水の流れぐあいや深さ、海からの潮の入りぐあいなどを調べはじめた。次の日も、また次の日も、同じことを繰り返していたが、一向に工事は進まなかった。
 茂平は、「橋の反らせかげんが難しいなあ」と水の流れを見ては悩んでいたが、これといった決め手は、なかなか見つからなかった。
 2人は、岩屋の観音堂に籠って、7日間の願をかけた。7日目、満願の夜のことだった。2人は、川に一筋の縄が流れていく夢をみた。縄は、弓形になったり丸くなったりしながら、伸びたり縮んだりして流れていった。2人は、はっとして同時に目が覚め、互いの顔を見つめあった。
「観音さまのお導きに違いない。ありがてえこったあ」
と思わず、手を合わせた。夜明けを待って身支度をし、朝一番に大橋へ行った。
 早速、岸から岸にとどく縄を張り、水の流れでつくられる形を見届けながら、縄を伸ばしたり、引っ張ったりして橋の反らせ具合を決めた。それから工事は着々と進み、やがて見事な橋が完成した。
 観音さまのお力添えに深く感謝した2人は、江戸へ帰ってから下谷講の衆と相談して、岩屋山の頂上に身の丈3メートルもある大きな観音さまを建立した。

 豊橋の民話「片身のスズキ」(豊橋市図書館発行) より引用 


岩屋観音

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