● 三ロヶ池の大蛇   前のページへ戻る   HOMEへ戻る 

 あたしは三ロヶ池の大蛇。 あたしの大事な夫を殺した人間ども、絶対に許さない、崇ってやる!
 この村には三ロヶ地という池があって、底は天竜川につながってる。 あたしたち夫婦の棲み家だった。
 あたしたちの好物は人間たち。池の近くにいたらベロリと喰べちゃう。
「池には近寄ってはならん、主の大蛇に喰われるぞん」
 村人はめったに池には近寄らなかったけど、あるときのこと。 村の親子が3人、池のそばにやってきた。 草を刈っている様子、久しぶりのごちそうね。
 先に小さい子どもの方を飲みこもうと、夫がそーっと近づいて、音もなく口を大きく開けたその瞬間…、
「何をするか!」
 ドシャツ!
 父親が大鎌で切りつけてきた。
兄の方も駆けつけ、持っていた草刈の鎌で、夫をズタズタに切りつけた。 夫は全身から赤い血が流れ出て、血溜まりができた。
 ぎゃあああつ!
 あたしは夫の最期のときを目の前に、力の限り叫んだわ。
(許さぬ、人間ども。見ておれ)
 1人残されたあたしは池に戻ると底深くに潜り、天竜川へ向かった。
 それからいくらかして、その村の人間たちが天竜川の近く、秋葉山の山頂にある秋葉神社(浜松)へ参りに来た。
(あのときの恨み、思い知れ!)
人間たちが天竜川の渡船に乗ったとたん、
 ザッパーンッ!
 川から大飛沫を上げて姿を現したあたし。
(全員、喰ってやる!)
「大蛇よ! た、助けてぇ」
 針山のような牙を見せつけるように、ガツと口を開く。 転覆する船に縋り、泣きながら助けを求める人間、その数30、40。 老若男女、次から次に平らげていく。
よくも、あたしの夫を! 人間どもを許すものかっ。
 それ以降、その村の人間は天竜川の渡船の船頭に「どこから来た」と問われても、決して口を開かなかったという。

豊橋妖怪百物語(ばったり堂発行)より引用 


三つ口池

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