● 御幸神社の花祭り 前のページへ戻る   HOMEへ戻る 

 テーホへテホへ、テホトへトへヘ…。毎年、1月4日、御幸神社に力強い声が響きわたる。 八百万の神を迎え、悪霊を払い、五穀豊穣と無病息災を願って舞う「花祭り」だ。
 昔、豊根村から高師原を開拓にやって来た人たちが、辛かった開拓も軌道に乗り始めた頃、心のよりどころに氏神さまを祀る神社を建てた。 ようやく、この地に落ち着き始めた村人は、幼い頃から親しんだふるさとの懐かしい花祭りを行うようになった。 その頃、奥三河の佐久間ダムの建設があり、水に沈む村から、大切に守ってきた鬼の面や花祭りの道具を譲り受け、伝統ある祭りが新しい土地で受け継がれた。
 花祭りの準備が始まると忙しい毎日だが、大人も子供もわくわくする時だ。 子どもたちは舞いの練習に一生懸命だ。舞習いから帰ってくるたびに、じいちゃんは、
「壮大、舞いは進んでおるか。 ちょっと舞ってみよゃ」
と言う。 じいちゃんも子どもの頃にきびしく舞いを習ったから心配だった。
「もっと、腰をおとせ。手が上がっておらんぞ、壮太!」
 宮人衆に習い、じいちゃんに教わりながら毎日踊っていると、始めのころのぎこちなさは取れ、祭りの日を迎えるころは、立派な舞い人ができあがる。
 祭りの日、締め縄やざぜちが取り付けられ、舞庭の中は厳粛な雰囲気に包まれている。 神々を迎える神事が進み、舞庭に敷かれた真新しいこもの上で宮人が「楽の舞」、「しきさんば」を舞う。 青年たちの「地固めの舞」、「一の舞」が納められ、いよいよ、壮大たちの 「花の舞」の香だ。 衣装はゆかたびらに、たっつけ袴をはき、頭に花笠をつけ、鈴と扇を持つ。笛や太鼓の音に胸はドキドキ、足はガタガタふるえるが、舞庭に飛び出せばもう夢中。 激しく飛んではねて、クルクル回る美しい姿に、集まっている人たちの心はゆさぶられる。
 頬を真っ赤にして舞い終えた壮太は、じいちゃんのところへかけよった。
「おお、うまかったぞ、もう、じいちゃんは安心だ。ずっと続けてくれよ」
 祭りはますます盛り上がり、花祭りを代表する「榊鬼の舞」で役鬼が、大きなまさかりを持って舞い、へんべを踏む。 人気の舞「湯ばやし」は、少年4人がわらで作った、ゆたぶさを持ち、舞いながら見物の人たちに釜の湯をかけ、一年の無病息災を願うのだ。 かけられる見物人は、ひゃあひゃあと逃げ回るが、ありがたい湯だ。
 子どもたちは嬉しくてはしゃぎ回る。 舞い人も見物人も、テーホヘテホヘ…の、囃し言葉の大合唱で舞い狂う。 村、全体が一つになり、舞い踊った祭りも神々を送る神事で幕をとじる。
 その夜、壮太は、じいちゃんと一緒に湯ばやしを舞っている夢を見た。

 豊橋の民話「片身のスズキ」(豊橋市図書館発行) より引用 


御幸神社の花祭り

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