● 小松神社のきつねたち 前のページへ戻る   HOMEへ戻る   東三河の伝説・昔話へ 

 今年も秋祭りがやって来た。 小松神社の前には「奉献神明社祭礼」と書かれた幡が風にはためいている。
 今から350年ほど前のことになる。 その頃の小松神社のあたりは、小松新田とよばれる開拓地だった。神社は開拓民の守り神として造られた。 新田の開拓は、村中が家族総出で、汗を流し働いた。それだけに刈り取りが終わったあとの秋祭りを、誰もが楽しみにしていた。 祭りには餅をつき、大ごちそうを作り、男たちは、神輿を担ぎ村中をまわって、豊作を祝った。
 ある年の秋、となり村の甚吉は、小松村に住む兄さんに招かれ、久々に在所の小松神社の祭りにやって来た。
「甚吉よ、今日は祭りだで、遠慮せんと、ようけ飲んでいけや」
と誰もが言ってくれた。 甚吉は、その気になり酒をよばれた。 お宮の境内にむしろを敷き、子どもの頃のガキ大将たちが集まり、輪になって酒を飲むと、懐かしいやら、嬉しいやらで、賑やかに歌をうたい、踊りも出た。そうこうするうち夕暮れ時となり、甚苦慮、家族が待っていることを思い出した。
「今日は、えらいごちそうになった。おら、そろそろ帰るわ。ありがとよ」
と、礼を言い、女房と子どもが待つ家に帰ることにした。土産にもらった重箱を持ち、ちどり足でふらふらと秋葉の燈篭横を通り抜け、こおろぎの鳴き声を聞きながら家の方へと野道を歩いて行くと、
「甚吉どん、甚吉どん、どこへ行くね?」
という声がする。誰の声じゃい。わしにやあ聞こえん。と知らんぶりしていると、
「甚吉どん、甚吉どん、手に持っとる物は何だろうな? お土産かい」
 なんと、いつのまにか甚吉のまわりを狐や狸、もぐらまでが取り囲んでいた。
「ヒェー」と、甚吉は驚いたが、酔っ払った勢いで、
「よっしゃ、今夜はお前たちと付き合うぞ。 小松村の狐も狸も寄って来い。 祭りじゃあねえか、酒持ってこい。 お祭り甚吉さまがお相手するぞ」
今度は狐たちと賑やかに酒盛りを始めた。 そこで、さっき覚えたばかりの歌や踊りを教えてやった。みんな面白がって賑やかに歌い、楽しく踊っているうち、いつの間にか、空がぼおっと白んできた。
 家では女房が、いつまでたっても戻ってこない甚吉のことを心配していた。 女房が、小松神社の方へ探しにいくと、神社の南にある墓の中で甚吉が、「ムニヤムニヤ・・・」と寝言を言いながら、土産の重箱を枕にぐっすり眠っていた。
 甚吉から話を聞いた女房は、甚吉が狐たちに化かされたな、とクスリと笑った。 甚吉が枕にしていた重箱の中から、どんぐりがコロコロとでてきた。
 豊橋の民話「片身のスズキ」(豊橋市図書館発行) より引用 


小松神社

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