● 竜のうろこ 東三河の伝説・昔話へ   前のページへ戻る   HOMEへ戻る 

 ずっと昔のお話だ。 たらたらと汗を流しながら、仁連木村の農家の人たちが、全久院にやって来た。
「和尚さま、こんなに日照りが続いちゃあ、田んぼも畑もカラカラだわい。 何とか雨を降らせてもらえんかのう」
 ここんところ、ずっと雨が降っていない。 お寺の大きな椎の木も元気がなく、なんだか鐘の音も沈んで聞こえる。 
 和尚さまは、ますます励んで、朝から晩まで雨乞いのお経を上げた。
「今日も一粒の雨も降らなんだな。 仏さま、なにとぞ村をお助けくださらぬか」 ため息をつき、座っていた和尚さまは、ふっと、後に人の気配がしたのでふり返ると、夕暮れの暗くなりかけた本堂の隅に、1人の娘が手を合わせていた。
「おやおや、なんぞ寺にご用がおありかの」
と娘に訊ねると、
「驚かせて済みません。 私は今とても苦しんでおります。 この苦しみを仏さまに救っていただきたく、和尚さまと一緒にお経を上げさせてください」
「なるほど、それはよい心掛けじゃ。 苦しみや悲しみはだれにでもあるものだ。 仏さまにおすがりしようぞ」
  次の日も、夕方になると娘はどこからかやって来て、ひたすら祈りを続けた。 だが、10日を過ぎ、20日を過ぎて、あんまり熱心な娘のようすに、和尚さまも不思議に思い、とうとう訳を訊ねた。
「私は、じつは海倉淵に住んでいる竜でございます。 この20日あまり、一心に和尚さまと仏さまを拝み、すっかり心が軽くなりました。 もう迷うことなく、天に帰る決心がつきました。 和尚さまのご恩は決して忘れません」
  娘は深々と頭を下げると本堂を出ていった。 和尚さまが見送ろうとしたその時、暗闇の庭に突然ピカピカっと稲光が走り、くるくるとまわり始めた娘の姿がみるみる竜に変わると、バリバリと激しく雷が鳴り、竜は空に舞い上がっていった。
 まもなく、バケツをひつくりかえしたような、どしゃぶりの雨だ。 あれよあれよという間に、目がまわるばかりの和尚さま。 やっと気がしずまり、仏さまに手を合わせようと座布団に近づけば、なんとまあ、そこには6枚の金のうろこがキラキラと光っていた。 6枚の金のうろこは、娘が和尚さまに残していった恩返しだった。
 全久院には今も宝物として、竜のうろこが大切に伝えられている。
 豊橋の民話「片身のスズキ」(豊橋市図書館発行) より引用 


全久院

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