● 椀かせ岩 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 三河と遠州の国境、今は愛知と静岡の県境に、弓を張ったような山並みが続き、その南の端に、ひときわ切り立った岩ばかりの山 「立岩」 がある。
 昔、この山に白いきつねが住んでいた。 たびたび里へおりて来ては、村の人にいたずらばかりするので、村は立岩にお稲荷さんを祀って白ぎつねを静めていた。
 ある時、白ぎつねが山の上で飛び跳ねて、大きな岩を銀作の田んぼに落とした。 その椀のような岩の上で、銀作は実った稲穂を眺めていた。
 「今年も豊作じゃ。 苦労のしがいがあったわい。 ありがたいことだ。 だが、お前がどいてくれると、もっと米が獲れるものを、じゃまなやつだよ」
「それになあ、困った事ができたわい。 稲刈りを終わった日に、おひまちをするのが村の慣わしだ。 今年はわしの家の番なのに、20もの椀がない。 どうしたものやら・・・」
 そのうちに銀作は心地よい風に吹かれて眠ってしまった。
「銀作、銀作、わたしはお前の田んぼに座っている岩だ。 今年もよう働いたな、心配せんでもよいぞ。 明日の朝ここへ来るがよい」
 涼しげな声がどこからか聞こえてきた。 あたりを見たがどうやら岩の中からのようだ。 
「あんまり椀のことばかり考えこんで、夢の中まで出てきたわい」
夕日を背にトボトボと家に帰った。 あくる朝、あてもないまま、銀作はふらふらと田んぼへやって来た。 ところがどうであろう、つやつやとした20の椀が、岩の上に並んでいるではないか。 思わず頬をつねった銀作、「なんということだ、夢は正夢だったわい。 うれしいのう」
 その夜は手品のように出てきた椀の話で、たいそうにぎやかなおひまちだった。
 つぎの日、銀作は野菊をひと束添えて、岩の上に椀を返し、岩の主にお礼を申し上げた。 一夜明けると岩の上の椀は煙のように消えていた。
 村の衆は、この岩を「椀かせ岩」と呼び、一年に一度だけ椀を借りることに決めた。
 「椀かせ岩」は今も中原町のはずれに、どっしりと座っている。

「片身のスズキ」豊橋の民話(豊橋市図書館発行)より引用 


椀かせ岩

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