● こはぜ淵のカッパ 前のページへ戻る   HOMEへ戻る 

 「よかったのう、お天気で」
「ああ代かきもこれで3日目、あと1日で大体になるえ」
藤重さはごきげんだった。
心よい初夏の風に吹かれながら、今日も1日田んぼで働いた。
代かきが終った田には水すましがすいすい泳いで、あとは田植えを待つばかりだ。

「ちょっくらへこはぜ淵へ馬洗いに行ってくらあ」
「どう(馬)もえらい働いてくれたで、くたぶれつらあ」
藤重さは、馬の先に立って手綱を長く引き引き、こはぜ淵へ向かった。
淵の尻へ着いた藤重さは、
「なあ、どうよ、えらかったなあ。さあ洗ってやるぞ」
馬は気持ちよさそうにしっ尾を振りながら、つめたい水をのんだ。
足を洗い、胴を洗い、首から頭、顔を洗って中州に上った。
馬は、気げんよくたてがみと一緒に胴をプルブルッとゆすった。
「どうよ、さあ帰るぞ。あしたも頼むぞ」
その時、馬がいつもとは違う変な鳴き声をしたが、藤重さは別だん気にもとめなかった。
明日も天気がよさそうだった。
途中どうが2、3度鳴いた。
藤重さは、とてもど気嫌だった。
 馬を引きながら家に帰った藤重さは、乾いた敷草が沢山入った厩の中へ馬を入れ、かいぼをうんとこさやった。
「たくさん食べるんだぞ」
藤重さは、馬の鼻面を馴でてやった。
馬は、バリバリ音をたててかいばを食べた。

少したつと、馬が急に驚くような大声で鳴きたてた。
家の者と一緒に夕飯の膳にすわっていた藤重さは、あんまりな馬の鳴き声に、
「やっ おかしいぞ。どうの声が、変だなあ」
つっと立って厩の方へ下りて行った。
薄暗い厩の中に変な者が暴れているようだった。
「おかしい 何だ 変てこなもんがおるぞ」
そう言いながら、藤重さは厩の中へとび込んだ。
「やっ 変なもんだぞ」
< 絵にあるカッパみたいなもんだ >
「カッパだ カッパだ みんな呼んでこい、カッパの野郎だ」
 厩から追い出されたカッパは、土間の真ん中へ引き出され、皆んなからさんざんな目にあった。
「こんちきしょう こんちきしょう
カッパは、半べそをかきながら、土間へうずくまってしまった。
泣きながら
「悪かった。悪かった」
「ゆるしておくれ、ゆるしておくれ」
「わしは、長い間あの淵に住んでいるこはぜ淵の主だ。馬の尻っぽなんかにつかまって悪かった。
今度ばかりは……………今度ばかりは……………」
「許してくれたら、これからは決して人畜にはあだはしません。そればかりか難儀な人や、あぶないことがあったら、きっときっと助けます」
カッパは平たい頭をペコペコさげて、なんべんもあやまった。
皆んなは、顔を見合わせ、なんだか可愛そうになって、そのままこはぜ淵の方へ送ってやった。
 それからは、こはぜ淵でおぼれて死んだ人も流された人も、1人もないそうだ。

東栄の民話(東栄町教育委員会発行)より引用


こはぜ淵

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