● 田峯城主とあゆ 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 今は発電所の堰堤になっているところを、昔は二の滝と呼んでいました。この二の滝は水落ちが高く、どんなにはげしい水の流れでもものともしない若あゆも、ここばかりはどうしてものぼることができず、したがって、この滝から上流にはあゆは住まなかったのです。
 ところが、いつのころか、田峯に大そう情深い殿様があって、田峯の城下にもあゆをのぼらせて自分も楽しむとともに、村の者たちにもあゆをとらせてやりたいと考え、まず、あゆの上るのをじゃましている二の滝の岩をこわしてしまうことにしました。
 殿様のさしずを受けた人夫たちは、いよいよ足場をくんで仕事にかかろうとすると、にわかに大雨が降り、大水が出て、足場はひとたまりもなく流れてしまいました。水の引くのを待って、また足場をきずき、仕事にかかろうとすると、ふしぎと大水が出てまた流れてしまう。何度も何度も、同じことをくり返すばかりで、仕事は進みません。
 田峯の殿様は、このようすを聞き、少なからずあせりました。しかし、何としても思いたったこの事を成し遂げようと、決心して、自分自身がこの現場に出張してきて、今度は腕ききの人夫を直接さしずして、一度に二の滝の岩をくだいてしまおうと、どんな大水にもびくともしない大がかりな足場を組み、準備をいっさいととのえました。いよいよ明日は、この仕事が始まるという時です。
 その夜、殿様が寝ているとどうでしょう。頭に赤い角のある大きなうなぎがあらわれて、
「自分は、この滝の滝つぼに住む主であるが、あの滝をくだかれてしまっては、まことに困る。どうか、くだかないでほしい。あのままにしておいてくれるなら、お礼として、今後は必ず、二の滝から上にもあゆを上らせましょう。」
というので、殿様は、
「そうか、それでは、お前のことばを信じて、この度の仕事はやめてとらせよう。」
と答えると、主は大へん喜んで、
「それはまことにありがたい。それでは、この約束がきっと間違いのないように、この事を岩に書きつけて、しょうこにしましょう。」
といって立ち去りました。
 眼のさめた殿様は、昨夜のことを信じてよいのかどうか、迷いながら、朝早く、二の滝の岩を見に行きますと、ふしぎにも、そこには、岩の中から、にじみ出たように、昨夜約束したことが、墨の色もあざやかに書きしるされてありました。
 これを見た殿様は、満足して、工事を中止し、家来をひきつれて田峯に帰りましたが、それからというものは、毎年田峯の城下には、たくさんのあゆが上ってくるようになったそうです。

新城昔ばなし365話(新城市教育委員会) より引用 


田峯城

二の滝(花の木ダム)

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