● お薬師さま 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 鹿野の大脇には、それはりっばなお薬師さまがござっしゃる。
 お寺は、なんでも12坊もある大きなお寺だったそうな。 その証拠には、お薬師さまのまわりにはいまでも、仁王門、小坊寺、貴照堂、坊の谷下、堂谷下などと村の衆が呼んでいるところがあるくらいだから、わしは本当の話だと思っとるがな。 そのりっぱなお寺も、武田信玄が野田城を攻めるとき、のろしのかわりに焼いてしまったので、いまは、お堂だけがひっそりと残っているというわけさ。
 このお堂は、たった1本の松の木で造ったということだよ。 ずいぶん大きな松の木だったろうな。 また、お薬師さまは、鳳来寺のお薬師さまとごきょうだいで、1本のアスナロの木で作られたという話じゃ。 大脇のお薬師さまが木の根元のほうで作られているそうだから、姉様ということになるのかな。
 お薬師さまは、昔から病気をなおしてくれる仏さまちゅうことだが、ここのお薬師さまは、とくに目の悪い人にご利益があるといわれてな、「どうか、目をなおしてくだされ。」と、ひらがなで「め」の字を年の教だけ書いてお願をかけると、願いごとを聞きとどけてくださるということだ。
 むかし、お寺が栄えていたころの話だが、ご開帳のときは、諸国から人びとが大ぜいお参りに来たそうな。 そのときは、お薬師さまの腕に白い布が巻かれ、それを参道にそって仁王門の方まで長く長くのばしたそうな。 お参りの人びとは、その白い布にさわりながら、一心にお祈りをしたということだ。
 仁王門は、お堂の前につづいている丘のはずれにあったが、今は小さな石のほこらが雑木林の中にぽつんとあるだけだよ。 この仁王門には、りつばな仁王様がいたんだが、ある晩、ひとりで歩いて中宇利の冨賀寺へいってしまわれたそうな。 いやいや、歩いていったのではない、飛んでいったんじゃ、という人もいることだ。

 新城昔ばなし 365話(新城市教育委員会発行) より引用 


林光寺薬師堂

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