● 竜が池 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 池場の氏神様は、信濃の国諏訪湖畔にある諏訪大明神の分社で、池の島神社と呼ばれ、水を満々とたたえた池のそばの森に祭られているが、この氏神様がここへ移ってこられた時、母子の竜がお供をしてやってきて、こめ池の中に住んでいた。
 母の竜は、汚れの多い人間の目に触れることを恐れ、いつも子の竜に向って、人の目に触れないようにと注意していた。
 それは暑いある夏のことであった。氏神様のお祭がにぎやかに行われて、村の人達は、池のほとりやお宮に集って祝い興じていた。
 この村で一番きれいな娘だと評判の高いたまえさんも、みんなと同じようにお祭を楽しんでいたが、だんだんと夜がふけてきたので、家へ帰ろうとした。
 すると、どこから現れたのか、1人の立派な美青年がにこにこしながらついてきた。そして家の中まで入ってきて、愛想よく話しかけてきた。たまえさんは、つい気を許して、夜の明けるまで2人で楽しくすごしあった。
それから後は、この美青年は、毎晩毎晩くるようになり、たまえさんは、夢のような楽しい月日をすごしていた。
 この美青年と親しくなったたまえさんは、ある晩のこと、この青年に
「あなたの家はどこですか」
と尋ねてみた。
 しかしその美青年は、にこにこするだけで答えてくれなかった。そこで今度は、
「あなたの名前は何と言うのですか。」
と尋ねなおしてみた。
 しかしやっぱり、にこにこするだけで教えてくれなかった。
 へんに思ったたまえさんは、お母さんにこのことを話してみた。すると母は、
「それでは、今度きた時に、その青年の着物のすそに糸をつけておきなさい」
と言った。
 その晩、その美青年は、いつものようににこにこしながら、たまえさんの部屋へ入ってきた。そこでたまえさんは、すきをみて母から教えられたように、着物のすそへ糸をつけておいた。
 やがて2人の楽しい夜も明け、その美青年は帰って行った。たまえさんは、彼が帰って行った後、こっそりとその糸をたどって行ってみた。
 すると、その糸は、なんと竜が池の中へ入っていた。びっくりしたたまえさんは、恐しさと悲しさで胸がいっぱいになり、青ざめた顔をして急いで家へ帰り、お母さんにこのことを話した。これを聞いたお母さんは、
「やっぱりそうだったのか」
と言いながら心配そうな顔になった。
 それからまもなくたまえさんは、腹が痛みだし、たらい3杯もの竜の子を生み落した。
 あの美青年は、実は竜が池の竜の化身だったのだ。
 あまりのことにびっくりした母親は、どうしたものかと困ってしまったが、ふと、
「竜は金物が嫌いだ」
と言うことを思いだした。
「そうだ、縫針千本を添え、竜が池に投げ込んでみよう」
と考え、たまえさんが生んだ竜の子を、氏神様のそばの竜が池に運び、縫針と共に池の中へ投げ込んだ。
 するとまもなく、池の中がざわめきだし、空が暗くなって雨が降りだし、さらに風も出て嵐のようになってきた時、池の中の竜が雲に乗って昇天し、北へ向って飛び去って行った。
 その後、この池は静かな池になり、2度と竜にまつわる出来事は起きなくなったと伝えられている。

 鳳来の伝説(鳳来町文化協会発行)より引用 


池之神社

竜が池

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