● 酒が水になった話 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 昔、竹の輪の日吉神社の祭礼のときのことであった。当番の人が、祭礼用の酒1たるを遠く新城まで買いに行くことになった。吉川峠を越えて歩いて行く酒買いは楽ではなかった。酒屋の主人も、遠いところをわざわざ1たる買いにきてくれたことをうれしく思い、氏神様へ奉納するお酒を1升寄付して、その人たちに持たせた。
 ところが、道中は長いしお酒のいいにおいもするので、その人たちはついたまりかねて、悪いとは思いながらも、奉納用に預かってきた1升を、吉川峠で一休みしながら飲んでしまった。いい気分になり、奉納酒のことは知らぬ顔をして1斗だるだけをお宮へ運び入れた。
 竹の輪は別名酒の輪といわれるほど、お酒を沢山飲んでお祭りを盛大にやることで有名な部落であった。いよいよ式が済み、みんな楽しみのお酒を飲もうとして1斗だるの鏡を抜いたところ、なんと中はただの水であった。
 お宮中が大騒ぎになり、酒を買いに行った当番の人に確かめると、「わしらはたしかに酒を買ってきた。途中でも酒のにおいがぷんぷんした。」と言った。そこでわざわざ酒屋まで確かめに行くと、酒屋でも「うちでは水など絶対に売った覚えはない。それは何かの間違いでしょう。」と強く言い張る。両方の言分に食違いがあって話が出来ないので、今度は改めて部落の人の前でたるに酒を入れ、酒に違いないことを確かめてから、酒屋の主人も付添って竹の輪まで運んできた。それを氏神様に祭りなおし、いよいよ氏子注目の中でたるの鏡を抜いてみた。ところが驚いたことに、またただの水であった。酒屋の主人は不思議に思い恐縮しながら、「それでは、私が奉納させて頂いたお酒も水になっているでしょうか。」と聞いた。
 しかし、そのような酒は奉納されていなかった。そこで酒を買いに行った当番の人に聞きただすと、「道中があまりえらかったので、吉川峠でつい黙って飲んでしまった」と、顔を真赤にして答えた。こうしてとうとうこの人たちの悪事はばれてしまった。氏神様が、酒屋の主人の志を無にした不正直な人たちへの怒りと戒めをお示しになったのだ、と評判になった。

鳳来町誌民族資料編 伝説と民話(南設楽郡鳳来町発行) より引用 


竹の輪 日吉神社

吉川峠

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