● 大淵と龍宮 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 花の木公園のところにある大淵は、龍宮までつづいていると言いつたえられています。
 昔、滝川村に、惣兵衛という材木商人がありました。なかなか手広くやっていて、御用材などもこの人が申しつかっていました。ある時、伊勢神宮へ御用材をおさめるというので、段戸の山から特別立派な材木を切り出させ、人足に川を流させてきました。大切な材木にきずをつけてはならぬというので、材木の先に鉄の輪がはめてありました。
 ところが、ふしぎなことに、川を下って二の滝(堰堤のある所)まで来ると、材木がみな川の中に吸いこまれて、1本もなくなってしまいました。人足たちはおそろしさに顔色を変え、
 「これは水神様のたたりだ。」
といって、みんなふるえあがってしまいました。これを見て惣兵衛は、
 「水神様だって、いわれもないのに大切な材木をかくす法はない。よし、今からどこにあるかさがしてくる。」
といって、家に代々宝として伝えられていた刀を口にくわえ、水中にザブンと飛びこんでいきました。
 惣兵衛がぐんぐんもぐっていくと、あたりがだんだん明るくなり、呼吸もしだいに楽になって、いつしか広い砂原の中を歩いていました。見ると、前の方に材木の山があります。惣兵衛は近づいておどろきました。材木は全部さっきなくなったものです。しかも、白い着物を着た老人が、今まさにその材木に火をつけようとしているのです。
 「しばらくまってくれ。それはおれの大切な材木だ。焼かれてはこまる。」
と、大声で叫びますと、老人は、
 「おまえは誰だ。」
と、するどい眼でにらみつけます。
 「おれは、この上の滝川村の惣兵衛と言う材木商で、この材木の持ち主だが、おまえはだれだ。」
と問い返しますと、
 「おれは、龍宮の龍神だが、なぜ材木に鉄の輪をはめて流した。」
と、きびしくとがめます。
 「この材木は、大切な御用材で、いためてはならないから、木口に鉄の輪をはめておいたのだ。さっそく返してもらいたい。」
と言いますと、老人は静かにうなずいて、
 「よし、これからいっさいこの淵に鉄を沈めぬというなら、この材木は残らず一鍬田のかいくら淵へ浮かばせてやろう。」
ということで話がまとまりました。
 惣兵衛は、わずか1日1夜だと思ってかえってきますと、この世ではもう3年もたっていました。そして家では、今日が命日だというので、お年忌の支度をしているところでした。
 さて、材木は約束通り、全部一鍬田のかいくら淵に浮いて出ましたので、惣兵衛は、お礼に、ふたたび大淵へもぐっていきました。すると神様は、
 「人間の2度と来るところではないのに、よく来てくれた。」
と、厚くもてなしたうえ、帰る時、不思議なずきんをくれました。これをかぶると、鳥が今何を鳴いているのかということが、いちいち聞きわけられるのだそうです。
 また、惣兵衛の家では、この淵へのぞみの用事を書いて流すと、翌日は必ず聞きとどけてくれました。ところがある年、田植えで大ぜいの人を頼んだ時、お椀が足らなかったので、20人前龍宮からかりましたが、「すえのおかさ」のふちを欠かしたままだまって返しましたので、その後は願いがかなわなくなったということです。

 新城昔ばなし 365話(新城市教育委員会発行) より引用 


花の木ダム

大淵

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