● 牛淵と天狗 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 長篠城趾の真下で、豊川と宇連川の合流しているところに、町内で最も大きくて深い牛淵が、満々とした水を漂わせ、その底は竜宮に通じているといわれていた。
 この淵の中程に、上が平らになった牛岩と言う大きい岩があるが、この岩の上へ、ときどき赤い牛が出て来て昼寝をすることがあった。しかしこの赤牛は、人間の気配がすると、たちまち淵の中へ飛び込み、めったに人の目に触れることのない神秘的な牛がいると言う淵として知られていた。
 この淵付近には、また天狗がよく出ることでも知られていた。
 豊川を川船が上下していた頃のことであった。1人の船乗りが仕事を終えてから、
「今日は、むし暑いで魚が獲れそうだな、一つ網打ちに行ってみるかな」
と言いながら牛淵へ出かけて行った。
 川へ行ってみると、魚がよくとんでいた。
「こりゃあようとんどるなあ、今日は獲れそうだぞ」
と、にっこりしながら、牛淵の尻の瀬で気合いを入れて一綱打ってみた。
 するとびっくりする程入っていた。喜んだ船頭は、次々と綱を打ち、
「今日は、うちの衆をびっくりさせてやるかな」
などと思いながら打ちまくり、とうとう籠へいっぱいになってきた。
「まあここらで止めとするか。それにしても、よう獲れる日だな。ちょっと気味が悪い程だな。」
などと独り言を言っていると、急に水面が
 「ピカー」
と明るくなった。
 驚いた船頭は「ほっ」として見上げてみると、牛淵の向う岸の大きな松の木の上に、大きな火の玉がぴかぴかと光って、松の木が今にも倒れそうに揺れていた。
 これを見た船頭は、あまりのすごさに肝をつぶし、岩かげに隠れて、
「ナムアミダブツ、ナムアミダブツ…………」
と念仏を唱え続けた。
 しかし、だんだん体が震えだし、ぞくぞくしてきたので、たまりかねてまっしぐらに家へ逃げて帰った。
 やれやれと思って網を片付けようとすると、ぼろぼろになっていた。魚龍を見ると、なんと籠いっぱい入っていた魚が一尾も入っていなかった。その瞬間、
「天狗にやられた」
と船頭は叫んだ。
 そして、あの火の玉が天狗の火と気が付けば、最初に獲れた一尾を岩の上に置いて、天狗に供えるんだったがと、じだんだ踏んで残念がった。

 鳳来の伝説(鳳来町文化協会発行)より引用 


牛渕橋

牛淵

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