● 打矢の地の神 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 戦争が激しく行われていた昔のある日のことである。みすぼらしい姿をした男が、この近くのある農家の庭先に立った。農家の人はこのみすぼらしい男を気の毒に思い、家に入れて休ませてやった。よく見ると体のあちこちに刀傷があって何か訳がありそうに思えたが、家の人は何も訳を聞かずに親切にしてやった。男はそのお陰でだんだん元気になってきた。
 やがて5月の茶摘のころになった。茶摘はねこの手も借りたいという程だから、その男も馴れない仕事であるが手伝おうと思って、その家の人と一緒に茶摘をした。
 茶を摘んでいると、不意にどこからか一本の矢が飛んできてその男に命中した。みんな驚いてあたりを見回したが、怪しい人影は全然見当らなかった。不審に思いながらその男を介抱していたが、矢の当り具合が悪く、息もたえだえに、
 「お百姓さん、大層お世話になりました。私は自分の身の上も明かさずにいましたが、実は名のある武士です。不運にも戦に破れましたので、敵の追手を逃れるためにわざとこじき姿になって、この大野まで逃げて来たのです。もう私の命も最期です。どうかここへ地の神として祭ってください。お世話になったお礼に、地の神となってこの地を守り、繁栄するようにいたします。」
 と言いながら息を引取った。そこで近所の人たちと協力して、ここにその武士を葬り、祠を建てて祭った。それからこの祠を「打矢の地の神」というようになった。

鳳来町誌民族資料編(南設楽郡鳳来町発行)より引用


打矢の地の神

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